(1) 東アジア地域金融システムの現状分析

東アジア地域におけるより望ましい金融システムを考察するためには、地域内金融システムの現状分析が不可欠である。日中韓の金融制度の精緻な現状分析を行うことにより、各地域の金融システムの共通点や差異を明確し、国際通貨制度の現状と課題を明らかにする。また、1997年、1998年に発生したアジア通貨危機の原因と東アジア地域が受けた影響を分析し、安定的な金融システム構築に関する考察を行う。

この分析によって、東アジア地域の金融システムに関する問題意識を各研究者間で共有することができるようになり、これ以降の研究により一貫性を持たせることが可能になる。

(2) 金融システム安定化・金融規制の設計のための理論的研究

応用経済学分野の一領域である金融論、国際金融論、情報の経済学を基礎として、金融システム安定化・金融規制の設計のための理論的研究を行う。この研究では、従前より行われている分析手法に加え、動的計画法や最適制御理論などのORに基づくアプローチが用いられる。これらの新しい分析手法を導入することによって、東アジア地域の金融システムのダイナミクスがモデル化され、金融システムを安定化させるための政策や、有効な金融規制の提言を行えるようになることが期待される。

(3) 市場データおよび企業データを使った各国の金融システムの実証分析

金融システムに関する実証分析は欧米を中心に行われており、東アジア地域、とくにこの地域で重要な役割を占めつつある中国に関する研究成果は少ない。このため、東アジア地域の金融システムに関する政策提言に十分な実証的な裏付けがなされていないのが現状である。本プログラムでは東アジア各国の為替レートをはじめとする市場データおよび財務データを中心とする企業データを利用し、各国の金融システムに関する実証分析を行う。市場データを利用した分析は、は各国の金融政策と為替リスクの関係を、企業データを利用した分析はコーポレートガバナンスと財務情報および株価の関係を中心に行われる。

(4) 市場データを使った東アジア各地域金融システムの相互依存関係の分析

研究計画(3)では東南アジア地域各国の国内金融システム分析がなされる。この研究成果を踏まえて、東アジア各国の金融システムがどのような依存関係にあるのかを実証的に分析する。具体的には、ある国の為替レートの変動が増大した場合、他の国々にどの程度のスピードでどのくらいの影響を及ぼすのか等についての分析がなされる。

この分析を行うことによって、国境を越えた金融市場インフラ整備のあり方についての詳細な議論が可能になる。

(5) 研究総括と東南アジア地域および他学問領域への拡大に関する可能性の検討

(1)~(4)で蓄積された研究成果をもとに、東アジアの金融システムや通貨制度の将来像に関する政策提言を行う。この提言にはアジア債券市場育成のために有効な政策、アジア共通通貨導入の可能性、東アジア地域統合の可能性などが含まれる予定である。

さらに、東アジア地域に関する本プログラムでの研究成果を、東南アジア地域に適用する可能性を追究する。

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Empirical Study on Asian Financial Markets

Edited by Masayuki Susai Hiromasa Okada

本書は、2006年12月に長崎大学において開催された国際カンファレンス等で報告された東アジアの金融市場を対象とした金融および会計学における実証研究の成果をまとめたものである。