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令和5年度第1回進学説明会を開催しました。

(発表内容)

私がお話するポイントは2つあります。1つは、私のようなもともと学術的な知見のない社会人が、大学院を受験し合格できるのか。2つめは、そのような人間が仮に合格できたとして、日々の授業に出席し、既定の単位を修得し、論文を仕上げ、最終的に修了できるのか。そのような当時の私と同じような不安をお持ちの方の一助になればと思っています。

私は現在、長崎市北部において、高齢者住宅を核とし、あらゆる世代が交流できる複合的な街作り事業を運営しております。まず、私の簡単な経歴ですが、地元の長崎南高を卒業後、約半世紀前に本学経済学部経済学科に入学いたしました。入学後はバスケットボール部に所属し、学業よりもっぱら部活動に精を出す日々でした。卒業後三菱系の鋼板・産業機械メーカーを経て、テレビ朝日系列のNCC長崎文化放送が立ち上がる時に転職し営業や番組制作に関わりました。その後、事業承継のタイミングで造船関連の事業に携わる家業に戻り、赤字体質からの脱却を図るため、工場用地を活用する、思い切った業種転換を図り、先ほど述べました事業を立ち上げ、現在に至っております。ここまでが、大学院受験前までの状況です。

さて、現事業を四半世紀近く経営してきて、私自身が事業承継等新たな変革を行わねばならない時期に差し掛かりました。ここで、現在まで現場の経験の積み重ねだけでやってきた自分なりの経営を検証し、これからの方向性の指針を見出したく、60代半ばにして40年ぶりの学び舎へ挑戦することを決意しました。

では、ここからが受験に対する準備です。挑戦するにあたっては、まず研究テーマをある程度絞り込むことが必要です。

私たちは、社会人として現業に携わる環境に身を置いています。よって一番やりやすいテーマは、あくまで私見ですが、自らの現場で起こっている事象のなかで、日頃から疑問に感じている点や問題点・課題を抽出し、その具体的な解決策を見出していくような流れでテーマを絞り込むことだと思います。その場合の利点を一つ紹介します。論文に求められるものの一つに、『独自性』、いわゆるオリジナリティがあります。自分の仮説を論証していくうえで、現場でのインタビューやアンケートの分析データが、その裏付けとなり、自然と自分ならではの独自性が確保できることになります。私の場合は、医療・介護の業界に身を置いていますので、そこで起きている国の施策と現場で起こっている実態との乖離などをもとに、受験に必要な研究計画書の作成に取り掛かりました。

勿論、業務に関わらなくても、世の中のタイムリーな話題で、自分が興味を持っている事象に焦点を当て研究を進めている方も多数おられます。その場合は、また違った方法でデータを収集し分析・検証を進めます。

ここで肝心なのは、ご存じのように研究の世界に身を置くということは、単に興味ある事や疑問点について詳しく調べる、いわゆる宿題をやり遂げることではありません。自らテーマを設定し、仮説を立て、先行研究を批判し、自説を論証していくこと、その繰り返しが研究の世界です。研究ですので、終わりはありません。生涯継続していくことに意味があるのです。

まず、その研究・学びに対する姿勢があることを、小論文・面接においてもしっかりアピールされることが肝要かと思います。

修士課程入学後は、専門科目の単位修得と担当の先生指導の下、ゼミで研究を進めます。ここで最初に心配になるのが、選択した授業に働きながら出席できて、単位修得にたどり着けるのか、という点でしょう。一年間は、第1セメスターと第2セメスターがありますが、最初の一年の第1セメスターに、ある程度頑張って単位を修得すると、例えば1日に1科目~2科目、一週間に月~金のうち4日間、つまり一日休日を入れ込めるぐらいで選択すると、第2セメスター以降がとても楽になります。

ただ、それが出来なくても、標準修業年限は2年ですが、自分の仕事環境等に合わせて、3年以上の長期履修制度を利用される方も多数おられますので、無理なく通学できます。授業内容についても、久しく学校の授業から遠ざかっているため、最初は専門用語や統計学の数式などに面食らうこともあるかとは思いますが、何度も申しますが、学術的知見のないこの年齢の私が乗り切っていますので、恐れるに足りません。同期の仲間にも、経済・経営とは全く関係のない、理系の専門学校出身の方もいますし、その方も後期課程に長期履修を活用し進学されています。

また、指導教員の先生方も親身になって丁寧に教えてくださいますので、安心してください。論文作成においても同様です。さらに、ゼミの先輩方も科目の選択の仕方、単位の修得方法など細かいところも、色々と相談にのってくれます。

さらに、同期の「世代も国も超えた」仲間たちと、コミュニケーションを深めていく時間も、何物にも代えがたい貴重な経験となります。ここで感じえるものは、日常の仕事の世界では味わえない同じ「研究者」としての一体感です。

最後に私の経験からもう一言。よく「経営は現場の実務から学ぶもので、机の上で学ぶものではない。現に学者が優れた経営者には必ずしもなれないではないか。」という経営者・管理者がいますが、そういう経営者・管理者こそ門戸を叩いてほしいと思います。学ぶ姿勢を持って、学術の世界に身を置き、研究を進めることで、経営者・管理者・リーダーとしての自らを検証し、新たな意識改革・革新の指針が必ず見えてきます。これは、単にセミナーや講習会で経営対策の知識や技法を学ぶこととは次元が違います。自ら問題提起し、仮説を論証していく研究の過程で初めて見えてくるものです。今までの自分が、いかに偏見と思い込みに満ちた視点しか持ち得ていなかったかを、気づかされることになります。そしてそれは自分自身の生き方や人生哲学にも関わってきます。

ここにいらっしゃる皆さんは、すでに学ぶことの必要性を実感なさっている方々だと思います。学ぶことに遅すぎることはありません。いや、学びは一生必要であり、生きている限り学び続けねばなりません。どうか勇気をもって一歩踏み出しチャレンジしてください。

この先人たちが築いた片淵のキャンパスは、世の中へ学びの必要性を発信し続けるための貴重な環境です。是非、その仲間になっていただけるよう、皆さんのチャレンジを心からお待ちしています。

そして、ここにいる学部現役生のみなさんも、卒業後社会人になられて、それぞれのタイミングで学ぶ必要性を感じた時、ぜひまたこの片淵のキャンパスに戻られてください。