前進・後退プロセスとその応用
前進プロセスとは、現状や想定から結果を予測する。(これまでの例はすべてこちら。)
後退プロセスとは、望ましい結果を導き出すための方策を算出する。
前進プロセスと後退プロセスを繰り返すことで、AHPを戦略的に利用できる。
戦略的な利用例としては以下のような例も考えられる。
(1)p144の支店長人事において、現状で最も支店Tの支店長に適任なのはBさんであった。
では、Dさんが支店長候補になるには、どんな努力が必要か?
(2)p110のスキー場選びの場合、前進プロセスでM君の意思決定を行ったら、蔵王が選ばれた。
では、もし戸狩が大学生をもっと集客したいならば、どのような方策を採るべきだろうか?
1.前進・後退プロセスの手順
都庁舎移転問題の分析
<手順1>都庁舎移転問題に関する階層図をつくる。
<手順2>階層図をもとに一対比較を行い、総合ウェイトを出す。
<手順3>シナリオの予想特性値をだす。
<手順4>望ましいシナリオの希望特性値をだす。
<手順5>予想特性値と希望特性値の偏差を比べる。差が大きければ後退プロセスを行う。
差が小さければ(許容できる値ならば)AHPを終了する。
※二つの特性値の差がどれくらい以上で後退プロセスを行うかは、明確な規定なし。
<手順6>後退プロセス階層(目標とする結果を実現するための階層図)を作る。
たとえば、レベル1に望ましい結果の実現、レベル2に問題点、レベル3に問題解決の
手段をもってきて意志決定を行うと、希望未来達成のために行うべき対応の優先順位が
決定されるため、その結果を用いて現状に対処することができる。
<手順7>手順6で決定された、何らかの対処策を考慮した上で、再び前進プロセスを行う。
ここで得られた予想特性値を、希望特性値を比べる。以下手順5に戻る。
以上の手順をもとに前進後退プロセスを用いて、実際に意思決定問題を考えてみる。
2.アメリカ連続テロに対して日本のとるべき行動
<前進プロセス>
代替案:武力行使への積極的参加(積極行動)
武力行使への消極的参加(従来の健保解釈枠内の参加)(消極行動)
武力行使への不参加とその他の活動による支援(反武力・人道援助)
アクター: 日本政府(政府)
日本国民(国民)
アメリカ政府(アメリカ)
その他のアジア諸国(アジア)
評価基準:日本軍事化への恐れ(軍事化)
報復合戦への恐れ(報復)
テロへの厳罰(厳罰)
アフガンの市民への影響(被害)
階層図:
<前進プロセスの結果>
各レベルについて一対比較を行い、重要度を積み上げて総合評価を行ったところ、積極行動が0.492、半武力行使と人道援助が0.318、消極行動が0.225となった。これは、日々の報道を基に私の主観で行った意思決定であるが、現実の日本の政策や世論をよく反映した結果が出ているといえる。
<望ましいシナリオ>
そこで、今回の事件に対して、日本が取るべき理想的な政策を私の主観で考える。
望ましいシナリオ:日本政府は、テロ集団への武力報復に参加するべきではなく、テロ集団を生み出した社会的問題の解決に取り組むべきである。
<希望特性値>
望ましいシナリオの希望特性値を設定する。
積極行動(0.2)
消極行動(0.2)
反武力・人道援助(0.6)
<後退プロセス>
望ましいシナリオを実現するための対策を明確にする。
目標:武力行使反対
方針:野党の反対を強める
武力行使反対の世論を高める
対策:インターネットを使った武力行使反対運動(ネット)
武力行使反対のための市民デモ(デモ)
アフガンの現状を伝える(報道)
日本の積極的行動の内容を明らかにする(議会)
市民の話し合いの場を設ける(フォーラム)
階層図:
以上の後退プロセスの結果から、日本が武力行使反対の立場をとるためには、市民によるデモを行うこと、報道によりアフガンの現状を広めること、インターネット上で反武力運動を起こすことが有効であると考えられる。ここで、実際にこのような行動が日本内外で盛んに行われたとする。とくに、日本とアメリカにおいてこのような市民活動が活発に行われ、武力行使反対の世論が形成されたと仮定して、第2回目の前進プロセスを行う。
<第2回目前進プロセス>
階層図:
第2回目の前進プロセスより得られた予想特性値は、積極行動(0.21)、消極行動(0.163)反武力・人道援助(0.624)であった。私にとっての望ましい結果である予想特性値と比較して、消極的行動に対する予想特性値はやや低いが、大切なのは日本政府が武力行動ではなく人道援助を行うという点であり、この場合、反武力・人道援助の総合ウェイトが0.624と、希望特性値を上回っているため、ここで前進後退プロセスを停止する。
3.まとめ
このように、AHPは計画段階における意志決定を行うだけでなく、計画の現状把握を行うことができる。そして、現状と希望が合致しない場合に、その原因の解明と希望の結果を出すための対策を立てることが可能になる。
また、計画段階だけではなく実施段階においてAHPを行うことで、その計画の進行に合わせた計画の変更を適切に行うことが可能になる。