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経済学部新任教員のご紹介 (高柳 妙子先生)
令和8年4月1日付で長崎大学経済学部に高柳 妙子 (たかやなぎ たえこ) 教授が着任されました。

【研究内容】
「多文化多言語社会における教育・健康・ジェンダーをめぐる協働的実践」
私はこれまで、ケニア、パキスタン、タイ、キルギス、日本などにおいてフィールドワークを行い、国際教育開発、ジェンダー、そして人々のウェルビーイング向上の視点から、脆弱な立場に置かれた人々の学びと生活実践を明らかにしてきました。特に、インフォーマル・ラーニングやノンフォーマル教育、母語教育、子どもの健康安全といったテーマに焦点を当て、地域社会に根ざした知識や実践の意義を検討しています。
近年は、ケニア・マサイ社会における月経衛生管理 (MHM) や、北タイ・カレンコミュニティ、キルギスの伝統医療実践などを対象に、教育・健康・文化が交差する領域における学びのあり方を分析しています。これらの研究を通して、外部からの一方向的な「支援」ではなく、地域社会の知識や実践を尊重しながら共に課題解決を目指す「協働・共創」のアプローチの重要性を明らかにしています。
さらに、パキスタンにおいては、障害を持つ子どもや人々を対象とした学校安全に関する文理融合型研究にも取り組んでいます。本研究では、教育分野に加え、防災・公衆衛生・インフラなどの観点を統合し、災害時や緊急時における安全確保と教育機会の継続という課題に対して、包摂的かつ実践的な解決策の検討を行っています。
また、日本国内においても、ムスリム児童の教育や多文化共生の課題に取り組み、グローバルとローカルを往還する視点から、教育と社会の関係を多角的に捉える研究を進めています。
【担当 (予定) 授業科目】
「異文化コミュニケーション」「多文化多言語社会論」「プラネタリーヘルス」
本授業では、異文化コミュニケーションおよび多文化共生の視点を基盤としながら、グローバル化が進展する現代社会における人と人との関わり、言語、文化の多様性について探究します。
「異文化コミュニケーション」では、文化的背景の違いが相互理解や対人関係にどのような影響を与えるのかを理論と事例の両面から考察し、実社会において必要とされるコミュニケーション能力の育成を目指します。
「多文化多言語社会論」では、多様な言語・文化が共存する社会における教育、社会統合、アイデンティティ、包摂の課題を取り上げます。特に、移民や少数派、宗教的マイノリティなどの視点から、多文化社会の可能性と課題を批判的に検討します。
「プラネタリーヘルス」では、人間の健康と地球環境との相互関係に着目し、気候変動、環境劣化、感染症、食料問題など、地球規模の課題が人々の健康や生活に与える影響について学びます。また、持続可能な開発目標 (SDGs) との関連を踏まえながら、持続可能で公正な社会の実現に向けた課題と可能性について考察します。
授業では、ケニア、タイ、パキスタン、キルギスタン、日本などでのフィールドワークの知見を共有しながら、具体的事例に基づいた議論を行い、学生の皆さんが自ら問いを立て、考察し、現実社会の課題に応用できる力を養うことを目指します。なお、英語で開講する講義もあります。
【学生の皆さんへメッセージ】
私たちは日々、他者と出会い、言葉を交わし、理解しようとしながら生きています。しかし、その「理解」は本当に可能なのでしょうか。異文化コミュニケーションとは、単に違いを知ることではなく、他者とのあいだにある「わからなさ」と向き合い続ける営みでもあります。
文化とは固定されたものではなく、常に変化し、関係の中で立ち現れるものです。そして、他者を理解しようとする過程は、同時に自分自身の前提や価値観を問い直すことでもあります。本授業では、異文化との出会いを通して、「当たり前」と思っていることを一度立ち止まって見つめ直し、世界を多様な視点から捉える力を養っていきます。
ドイツの経済学者エルンスト・フリードリヒ・シューマッハは “Small is beautiful” という言葉を残しました。何でも大型のものに目が行ってしまう世の中ですが、小さなものを作る、小さなグループで何かをするということも美しいことですよ、と、提言しました。大学は、勉強も大事ですが、一人で立って生きていくための基礎を築いていく場所でもあります。大きな夢を持つことは決して悪いことではありませんが、同時に、日常の中にある小さな出来事に目を向け、耳を傾け、ささやかな喜びを見出しながら今できる小さなことをコツコツとやりながら生きることの大切さを思い起こさせてくれます。
また、グローバル化が進む現代において、文化、言語、そして健康や教育といった人間の営みは密接に結びついています。ケニア、タイ、パキスタン、日本などの具体的な事例を手がかりに、人と人との関係性の中で立ち現れる課題と可能性について考えていきます。
異文化を学ぶことは、他者を理解することにとどまらず、自分とは何かを問い続けることでもあります。確かな答えを求めるのではなく、問い続けることそのものに価値を見出しながら、みなさんとともに思考を深めていけることを楽しみにしています。
