ロンドンの大晦日は12月31日である。というのは当たり前だが、要するにただの12月31日である。師走も押し詰まって、いよいよ最後の一日、昔なら掛け取りに走り回り、家では一家総出で大掃除・・・・・・というような風情は勿論ない。極めて普通の一日のように感じる。
正月は何処にも行かずにロンドンにいると言うと外国人たちからは、あら、お気の毒にという反応が返ってくる。主として海外駐在員たちであるロンドンの外国人は年末年始は会社も休みだし、皆ヨーロッパ、スペイン、ポルトガル、ベルギー、トルコなどへ旅行に出かけてしまってロンドンにはいない。いるのはイギリス人ばかりである。
ロンドンで味わう年越しのイベントは?と聞いてみたが、トラファルガー広場にでも行ってみたら、というのがせいぜいで、トラファルガー広場でどんなことが起きるのかについては何のことはない、何となく人が(若者が?)集まってカウントダウンをやるというもので、あまり面白そうではない。ここは大人しく家で年越しそばでも食べながらテレビで見ることにした。
夜も11時ぐらいになると、ああ、もうあと45分で新年だなあとか、あと30分だなあとか、いよいよ押し詰まった感に浸り始めるものだが、テレビでは有名人がつぎつぎ出てきては 「Happy New Year!」と言うのでびっくり。こちらは、何だ未だ年内ではないかと思うのだが、別に手違いではないらしく、どんどん出てきて Happy New Year が続く。これは何か違うなという感じを抱きつつ、いよいよ1997年も最後の瞬間を迎えた。
画面はお祭り騒ぎの好きなエジンバラ街頭からの中継に変わり、道を埋め尽くした群集とともにカウントダウンが始まる。スリー、ツー、ワン、ゼロ!という訳で、明けましておめでとうございます、1998年が明けましたということになる。ひとしきりおめでとうが続いたところで、日本ならさしずめ、例の 「年の初めの・・・・・・・」と新年を祝う歌が入るところであるが、またまたびっくり。何とここで蛍の光が流れたのである。
何だこれは! こう、こちらの神経に障るような運びをされたのでは行く年1997年を省みて反省すべきとこは反省し、来る年1998年の初めに思いを新たにするという気持が台無しではないか。
もうほとんど怒ってしまったが、同居人たる娘が横から言うには、「31日は大晦日じゃなくて、New Year’s Eve なのよ。クリスマス・イブにもメリー・クリスマスと言うように、ふたつの日はつながっているんじゃない?」
ガーン、そうかもしれない。いや、恐らくそうであろう。私にとってショックだったのは、英国進出日本企業の訪問調査なんかやっている間に、当地事情の理解において娘にはるかに後れを取ってしまったことであった。
Jan.23,1998
ロンドンにて 藤 野 哲 也