藤野哲也のロンドン・レポート

ロンドン・レポート No.16 「 母の日 」


 不動産屋から賃貸契約更新について意向確認の問い合わせが来た。という ことは我がフラットの賃貸契約の満了が近づき、晴れて在外研究員として の調査研究生活を終える日が遠からずやって来るということである。勿論 、契約は更新せず、妻子、父母、姉弟、友人、その他の待つ祖国に帰らね ばならない。

 しかし、その前にまず汚した壁をこすって元の状態に似せなければならな い。台所と風呂も念入りに掃除しておいた方が印象がいいだろう。カーペ ットの染みは取れるだろうか・・・・・・・やるべきことは分かっている 。幼少期には母の仕事を、結婚後は妻の領域を侵さないようにおとなしく してきたが、家事もやればそこそこできるのである。

 母の仕事といえば、3月22日の日曜日は英国の母の日であった! 先 日までバレンタイン・デーのカードが並んでいた売り場には母の日用のカ ードがずらっと並び、それぞれ思いを込めてそれを母親に贈るようである 。しかしながら・・・・・母を思う気持は英国人に劣らないつもりだが・ ・・・・どうも違和感があって素直にハイそうですかとはいかないものが ある。日本の母の日だって外国から来た習慣であろう。しかしあれは間違 いなく五月の第二日曜である。

 物の本には 「 Mothering Sunday :昔からあったお祭りとアメリカの母の日が重なったもの」とある。うー ん、あれはアメリカの習慣がもともとなのか。しかしイギリス人は何故に 母の日を三月にしたのか?

 イギリスに長いロンドン大学の年配女性職員(アイルランド人)に聞いて みると、「あら、そうねえ。どうして三月なのかしら。そう言えば故郷( アイルランド)では 5月だったわよねえ。イギリス人は odd だから・・・・・・。 どうせ仕様もないこと決めたんでしょう ね。」と手厳しい。

 どうも母の日に関しては日本はグローバルスタンダード型で、英国の方が 世界標準から外れているらしい。

 こういう文化、習慣の話になると米国と英国でも違いがあるし、必ずしも アングロサクソン型と日本型、その中間を行くライン型などという線引き は簡単にはいかないようである。シェフィールド大学へ向かう車中、ボッ クス席の向かいに座ったイギリス人女性(に見えた)がむずがる赤ん坊に 手を焼き、おもむろにヤッとおっぱいを出して授乳し始めたときにもとて もびっくりした。かつて日本で読んだ本によれば、「人前でおっぱいを出 して授乳することを恥ずかしがらないのは母性を聖なるもの(性なるでは ない)と捉える日本女性の習慣で、外人が見るととても驚く」 とい うものだったからである。

 物事を見るとき、パターンにはめて理解しようとするのではなく、あるが まま・・・・・・ ”as it is” に認識 するということの重要性を思い知らされたような気がして、その女性がお っぱいをしまうまで目を離すことができなかった。

 April 1,1998

 ロンドンにて 藤 野 哲 也




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