今年のロンドンは 「何十年振りかの暖冬」の後、寒さが戻り、4月 は雪が降ったしコートも必要な寒い日が多かった。世界中どこもかしこも 異常気象である。このところ雨も多く、4月は1782年以来(!!)の 降雨量を記録したということである。英国の気象記録は随分歴史があるよ うであるが、真偽のほどは知らない。
雨と言えば傘、であるが、イギリス紳士はいつも傘を持ってるけど決して ささない、濡れて歩く、と言われてきた。「いつも持って歩いてるこの傘 、実は差したことがない 」 というのが本当のジェントルマ ンだいう話もあった。ちょっとぐらいの雨で傘なんか差せるかい、という 粋がりであろう。(何故、そんなことで粋がるのか、という疑問を感じる ようでは凡人の域から脱することは難しい。) 勿論、今日では傘をステッキ代わりに突いて歩く姿はシティと言えども見 掛けない。活動写真時代のような紳士は老人になってしまったのであろう 。
面白いのは、ステッキ代わりに傘を持つジェントルマンはいなくても、濡 れて歩く習慣は残っていることである。みな、ちょっとぐらいの雨では傘 なんか差さずに濡れて歩く。バリっとした背広姿のビジネスマンも、キャ リアウマンも、アンちゃんもネエちゃんもみんな濡れながら歩く。小雨の 中、傘をさして歩いているのはまず日本人その他の外国人だと見て間違い ない。
「これぐらいの雨なんて!」という顔をして歩くのがコツで、自然体で濡 れる、これがかっこいいのである。女性も洋服は勿論、髪が濡れることも 気にしない。スパイス・ガールズが傘なんか差してたんでは様にならない のである。勿論、雨を避けて走るなんてのも論外である。何でもないよう な顔をして濡れる、これがかっこいい女の条件なのであろう。
May 7, 1998
ロンドンにて 藤野哲也