藤野哲也のロンドン・レポート

ロンドン・レポート No. 4 「Hairdresserの梳きばさみ 」


 髪の毛が伸びてきたので床屋に行くことにした。そう言えば床屋はどこにあるのか、歩いていて床屋の店を見た覚えがない。同居人たる娘は「美容院に行けばいいじゃない」などと言う。長髪にしていたときは美容院に行ってたしそれでもいいのだが、床屋がどこにあるのかも知らないまま、というのは抵抗がある。

 そう思って気をつけて歩いていると、駅への行き帰りにも何軒かあった。ぐるぐる回る、例の赤と青の床屋の印のようなものがないので、知らずに前を通り過ぎていたらしい。 hairdresser とか hair stylist の看板を掲げており、どの店も前面がガラス張りになっていて、中の様子もよく見える。そうか、イギリスでは barber とは言わないんだったな。あれは高校の英語の先生だったか、古い話である。

 何人か客が待っていたが、何だか恐ろしく早く回ってくる。前の客の髪を電気バリカンで刈り上げる様をつぶさに見ていたので、まず「電気バリカンで刈り上げるなよ」という注文を。「少し伸びたので横や後を刈って・・・・上はあまり短くしない」。ここで止めれば第一回としては成功であった。

 髪を梳いてもらうには make it thiner と言えばいいのだが、そうか thiner かこれはいいなあと思ってつい言ったら、イタリヤ理容師(なぜか理容師はイタリア人が多いという)は「 Thiner? Yes,sir.」と梳きばさみを手にした。と思った瞬間には梳きばさみで横の髪を、頭の周りを水平に一周する形で一気に梳いたので ある。恐るべきスピードである。これではまるでバリカンではないか。

 タテのバリカンを警戒してヨコの攻撃に晒されてしまった。無警戒であった。完敗である。しかし、海外に出たら何といってもポジティブ・シンキングである。まあ、特にかっこ悪くなった訳ではないし、ここは 2勝1敗と解すことにした。長いシーズンを 2勝1敗で通せれば優勝である。ただ、梳きばさみの使いようでは日本人はイタリア人に後れを取るかもしれないということは何かの折に日本に伝えなければならないと思った。

 September 28, 1997

 ロンドンにて 藤 野 哲 也




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