暫くぶりに突然暖かさが戻って来た。気象的には例年と比べておかしいというが、ともあれもう寒くなる一方だと覚悟を固めていたのに暖かい陽射しに触れるとそれだけでうれしいと感じる。北欧の女性が短い夏の太陽にトップレスで日光浴するというのもなんだかわかるような気がする。私も長く厳しい冬を越えれば裸の胸を晒す仲間に入るかもかもしれない。
暖かさにつられて散歩に出た。足はいつのまにか Abbey Road に向かっている。(他に行くところはないのか?) EMI Abbey Road Studio前の壁には「ペンキ塗り立て( Wet Paint!)」と書かれていたが、これは何かあやしい感じがした。触ってはみなかったがちょっと落書きよけの嫌いがある。スタジオ前の横断歩道を渡ったところにはTシャツとかのビートルズグッズ(?)を売るお兄さんが店を広げていた。
ビートルズといえば、何日か前にポール・マッカートニーの娘がデザイナーとしてデビューし、パリでファッションショーをやった話が新聞の一面を飾った。ステラという名のこの娘(25歳)は当日開演前には両親に自分のデザインを見せなかったという。ポールの名声と恐らくはその コネを利用しつつも、考えられる親の干渉や情報の漏洩をうまく防いだのは利口なのであろう。
それに引き換え、テレビのインタビューに対してくどくど娘のデザインの素晴らしさを強調していたポールの姿はちょっと滑稽であった。「素晴らしいかった」のひとことで抑えた方が印象がよかったであろう。親の評価なんてどうせ誰も聞く耳持たないのである。言えば言うほど説得力がなくなるのが自覚できないところが親馬鹿の所以であろうが、かつてのビートルズを思えば情けない姿ではあった。
そう言えば、ポールも今や"Sir Paul ”であって、かつての Paul MaCartney ではない。20数年の歳月が過ぎ去った。歳はとりたくないものである。
Oct.19,1997
Londonにて 藤野哲也