藤野哲也のロンドン・レポート

ロンドン・レポートNo.9  「ロンドンの地下鉄」


 ロンドンの街中での移動には地下鉄が便利である。線が縦横に走っている上に駅と駅の間隔が短いので、長崎の市電とはいかないけれど、京浜急行の各駅停車ぐらいの感覚で次の駅があってとても便利である。もっとも、その辺のことが分かるまでは、乗り換えるぐらいなら歩いた方が近いような距離を、地下鉄路線図を片手に右往左往することになるのだけれど・・・・・・・・

 地下鉄の入り口は赤と青のマークで「 Underground」 と表示されている。「 Subway」 は何故かここでは地下道の意味で使われるようである。話し言葉では Undergroundというのも余り使われず、「 Tube」 「Tube」 というのが普通である。それは環状線に由来しているのか、それとも地下鉄のトンネル(?)の形状が丸いからか、その辺はよく分からない。

 初めてロンドンの地下鉄を利用しての第一印象はやはり汚いということだろう。薄汚れているという方が正しいのかもしれないが、とにかく駅は暗く、壁は何か場末の倉庫のようである。ベイカー・ストリートの駅なんかもほとんど映画に出てくるニューヨークの犯罪地帯の倉庫そのものである。

 ところが慣れてくると、どうもそれは汚いのではなくて古いのだということに気が付く。ロンドンの地下鉄は100年以上の歴史があるそうな。日本で言えば、さしずめ地下鉄銀座線である。倉庫のような感じがするのは 100年も前に積まれた煉瓦造りの壁だからであろう。そう思ってみれば、古い煉瓦も何か由緒ある歴史的構築物のような趣があって決して悪くはない。但し、夜遅く人もまばらな時はやはり薄気味悪い感は免れないが・・・・・・

 面白いのは地下鉄の駅や、駅の間のトンネル(穴?)が丸い形状であることである。まるでシールド(円盤型掘削機)で丸く掘ってそのまま固めたような印象なのである。日本の地下鉄の駅で電車が消えていくのは果たして丸い穴であったかと考えると、どうも穴の天井は四角かったような気がしているが・・・・・・。

 それに合わせたということなのか、ロンドンの地下鉄車両は丸型が多い。前面が流線形だという意味ではなく、車両の胴体を縦に切ると丸いということである。駅で電車を見送ると、丸いトンネル(穴)にぴったり合った丸い車両が吸い込まれていくのである。

 これだけならどこの国にもその国特有の様式があるという話で終わるのだけど、そうはいかないのである。丸い胴体の車両の内部は・・・・・当たり前だが・・・・・丸い。ということは、中央まで入れれば天井は高いが、ドア付近は天井に向かってカーブしているから頭が天井にぶつかってしまうのである。これは笑い事ではない! 危険を伴う。運悪く発車間際に飛び乗るとか、ラッシュで込んでいてどうしても乗らなければならない時などにドア付近に立つと、外側を向いて乗れば車体に沿って体はエビぞり、ドアの内側を向けば前の女性の髪の中に顔を突っ込んでしまう。

 在外研究に出て異国で痴漢呼ばわりは避けたいからどうしても横を向くことになるが、これとて苦しいことに変わりはない。

 ロンドンの地下鉄のラッシュは見た目には日本に比べればはるかに楽ではあるが、エビぞりで腰を痛めたり、痴漢呼ばわりされるリスクを伴っているのである。

 November 26,1997

 ロンドンにて 藤 野 哲 也




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