研究概要

プロジェクトの概要

本プロジェクトでは、企業の誕生から成長までを研究することを通じて地域経済の再生・発展に寄与すること、さらには国内外との研究者との交流を通じ、また国際学会などの開催を通じて本学経済学部が日本における成長性志向にある中小企業の研究拠点として立ち上がることを目的とする

本プロジェクトの目的

  • 成長志向にある企業に関する研究センター(「Center for Entrepreneurship, Growth, and Economic Revertization (CEGER 仮称)」)を設立し、国内における研究拠点となる。
  • 国外研究者とのこれまでのネットワークを活用、拡張し、継続的にIF付雑誌採択論文を生産できる組織研究体制を構築する。
  • 国外研究者との協働体制を活用することにより、研究センターの効率的運営、研究体制を構築する。

プロジェクトの詳細


(1) 社会的背景
少子高齢化と日本経済 今後、日本の経済は今後緩やかに下降傾向に進むことが予想される。米国コンサルタント会社、PwCの推定では、日本のGDPは現在の3位から2050年にはメキシコに次いで7位にまで低下すると予想されている。その原因は人口減少と高齢化にともなう労働人口の低下である。
 もし人口低下のもとで、なお経済成長を達成しようとするのであれば、より高付加価値商品を生み出すことができるイノベーティブな企業、つまり量より質の観点で世界を舞台にしてビジネスを展開することができる企業を生み出すことが日本経済にとって急務となる。
経済政策の観点から見た中小企業に対する重要性の増加 このような状況において、日本の企業のうち99%を占めている中小企業の潜在力を活かすことが重要となる。特に地方においては中小企業の潜在的な能力を十分に活用することが経済活性に急務である。
 近年は政府の主導によりベンチャー支援、企業のイノベーション活動の創発、特に海外進出を伴う企業成長を主導することが掲げられている。このことは例えば安倍首相の平成28年度所信表明でも大きく取り上げられていることからも分かる。さらには2015年版中小企業白書においても小規模事業者におけるイノベーション活動の重要性および成功事例が述べられている。
 経済成長を達成するのにベンチャー、あるいは中小企業支援を行うことには学術的にも裏付けがある。創業間もない、高い成長を志す企業、いわゆるスタートアップ企業が、より高付加価値商品を生み出すこと、また多くの雇用を生み出すことが、多くの国で実証的に確認されている。そのためスタートアップ企業の創設が国の生産性の向上に貢献すると考えられている。しかしながら、日本の開業率は低く、実際には十分なスタートアップ企業が生まれていないことが指摘されている。

中小企業を取り巻く経営環境の変化 さらにはスタートアップ、中小企業の活性化による経済発展を考えるにあたって、近年の中小企業を取り巻く経営環境の変化についても考慮する必要がある。具体的には近年のインターネット、技術発展を通じた経済システム、金融システムの発展についても考慮する必要がある。インターネット上での資金調達手段であるクラウドファンディングはその経済規模が増加しており、このことは企業の資金調達手段の多様化を意味する。さらに高齢化は企業においても進展しており、成熟した企業がこれまでの経営資源を活用し、一層の成長を図る、第二創業は直近の中小企業を考える上でのキーワードである。
 さらには企業戦略の一環としてのM&A(企業統合、買収)が中小企業においても一般化している。規模の経済を追求するため、これまで大企業を中心であったM&Aも、規模の小さな企業にも浸透してきた。
 これらを踏まえ、日本が今後の一層の経済発展を行うためには、より質の高いスタートアップ企業の育成、さらには既に成長が止まった成熟期、衰退期にある中小企業が経営方針の転換を伴いながらそれまでの蓄積を活かしたビジネスモデルを再構築すること、いわゆる第二創業を行うことが課題となっている。しかしながら、中小企業がどのような状態にあるのか、学術的にはそれほど分かっていない。
 
(2) 学術的背景
中小企業と大企業との相違 経済学・経営学の実証研究の多くは大企業を研究対象の中心としてきた。しかし大企業と中小企業では、想定される外部との情報の非対称性、事業の保有する不確実性などの観点で大きく異なる。そのため単純に大企業を対象とした研究から得られる知見などをそのまま中小企業に当てはめることは困難である。
近年のデータの整備 大企業と中小企業の間に相違があることは分かっているものの、データセットが不足していたことから、中小企業のデータを用いた研究はこれまで多くは行われてこなかった。しかしながら近年、いくつかのデータプロバイダーが中小企業のデータの整備を行っていることから、データセットの利用、分析が可能となった。
国際比較研究の不足 経済発展における中小企業の重要性は日本に限ったものではなく、他国においても同様である。近年のデータの整備により、国際比較を行うことが可能となった。国の法制度・政治制度や経済金融制度が企業の成長に影響を与えると考えられているが、そのような経済システムと中小企業の成長を絡めた国際比較研究は、これまであまりされてこなかった。本プロジェクトでは、他国研究者とネットワークを構築することを通じて、共同研究の遂行を行う。さらには複数国にまたがるアンケートの実施を通じて、経済システムとの比較分析を遂行する。

(3)本研究課題の進め方
センター構築
 中小企業研究を組織的に遂行するにあたって、また本学部が中小企業研究の拠点であることを内外に周知するためには研究センターとしての形式を整えることが望ましい。センターの運営に関しては国外研究者から意見をいただき、方針などを決めていく。
構成員は今回の申請メンバーを中心とした学内外の研究者、研究支援員(一名)、研究連携を行う本学大学院生とする。
設置場所は、片淵キャンパス内のオープンラボを一室借り上げる。
 センターの役割は以下のとおりとする。
5. HERMES コンソーシアムの本学部におけるパートナー
6. 定例的なワークショップの開催
7. 外部研究者との交流の窓口
8. 地方自治体、地元企業との連絡窓口
9. 研究支援員による事務的作業、研究補佐全般

国際的研究コンソーシアム HERMES への加盟 今回の研究計画を遂行するにあたって、学外研究者との密な連携を図ることが必要となる。そのために中期計画期間中に、ヨーロッパを中心とした研究ネットワークであるHERMESに加盟し、また長崎大学にて年次大会を開催することを誘致する。
 HERMESはHigher Education and Research in Management of European UniversitieSの略称であり、欧州ではリエージュ大学(ベルギー)、カ・フォスカリ大学(伊)、ドレスデン大学(独)、欧州以外ではAdelaide大学(豪)やテキサスA&M大学(米)など19大学が加盟しており、デュアルディグリープログラムの協定、研究者の派遣などを行っている。またコンソーシアムを挙げてスタートアップ、中小企業研究に注力をしており、コンソーシアムの持つ部会であるInstitute of Entrepreneurshipでは年次カンファランスの開催や学術雑誌Journal of Entrepreneurial Financeの刊行、精力的に活動をしている。
 日本の中小企業研究、特に経済学的観点からの研究はまだ乏しいと言わざるを得ず、そのことは言い換えれば本学が同研究分野の先端拠点になりうる可能性があるということができる。特に本研究課題では海外コンソーシアムを通じて海外大学と深い連携を行うことになる。そのため、本研究課題以外の研究分野、また学部・大学院教育についても追加的な便益をもたらすことが期待できる。

海外研究者の招へいおよび提携
1. 共同研究の推進 多くの作業はインターネット上のやり取りで済ませることが可能であるが、共同研究の推進にあたっては定期的に直接議論をすることが重要である。特に1~2週間程度の滞在を通じて研究の進捗状況、問題点の確認、方向性の確認を行うことが不可欠である。
2. 研究に対する助言 さらにはセミナー開催などを通じて、本学部研究者が遂行する他の研究に対するアドバイスなどを提供していただくことも可能である。欧州、とくにイタリアなどは伝統的に中小企業の数が多く、また本国の中小企業と経営環境では似たような状況におかれている。そのため、日本のデータを用いた研究遂行にあたって多大なベネフィットが得られると考えられる。
3. センター運営に対する助言 また今回設立する研究センターの運営にあたっての助言を提供していただくことも期待できる。特にHERMESなど先行する組織運営を行っていることから知見が得られる。中小企業研究者も多いことから今回の中期研究計画の遂行にあたって、共同研究以外にもセンターの運営方針について助言の提供していただくことが期待できる。