研究ユニット

本研究グループを3ユニットに分かれ、されにそれぞれが複数の研究テーマに細分化したもとで、成果をまとめ上げ、国際的IF付学術雑誌への投稿を行う。具体的には以下の3つから構成される。
① マクロ分析ユニット: マクロ的観点から企業の創業から成長までを俯瞰する。
② スタートアップ期ユニット:創業期に注目し、資金調達手段のあり方や経営環境との関連性を理論的、実証的に分析を行う。
③ 成長期ユニット: 成長段階に着目し、一層の成長、あるいは成熟企業にシフトチェンジする段階の企業の資金調達手段に着目する。

① マクロ分析ユニット: マクロ的視点から見たスタートアップ・中小企業、経済再生

1-1 政策的観点からみた地方の中小企業 (西森)
 政府による中小企業支援は、雇用創出を通じた地方創生という観点から重要性が増している。他方、今後、特に地方では急激な人口減により、中小企業にとって人材、市場の確保が一層困難になる。このような状況の下、地方の中小企業の創業・成長の制約とその解消策を明らかにすることで、地域の実情に応じた効果的な中小企業政策の策定を可能にする。


1-2 金融システムの発展と企業の成長 (工藤)
 企業の成長を勘案するにあたってその企業に円滑な資金提供が行われるシステムが国内において整っていることは重要である。このことから、一国の金融システムの発展の程度と、企業の成長の間には正の相関があることが確認されている。但し過去の実証研究の多くはデータへのアクセスが容易である大企業の財務情報を用いたものが多数であり、本研究課題のように中小企業レベルの財務情報を用いた分析は行われていない。そのギャップを埋めることを目的とする。


1-3 中小企業成長のリージョナル・ギャップ (山田)
 資金調達手段の発達が見られるものの、それら手段の利用状況については都市部と地方部で違いが見られると指摘されている。特にクラウドファンディングなどのインターネットを利用したサービス、あるいはベンチャーキャピタルなどの高度な金融の知識を用いるサービスについては都市部での発展があるものの、長崎をはじめとする地方部においては一般化していない。
 さらに需要側である企業についても、技術に依存した企業、いわゆるハイテク企業などが地方部において広く確認されていないと言われている。そのような地域間での起業の格差について明らかにする。

② スタートアップ期ユニット: 会社の誕生時の資金調達と経営環境

2-1企業と出資者の意思決定の分析 (吉沢、松木、山田)
 企業の開業前後の資金調達には、情報の非対称性と事業見通しの不透明さが大きな問題となる。
 情報の非対称性が問題になるのは以下の理由による。起業家は起業時に融資などの資金調達が必要であり、出資者もより有益な事業に出資をしたいと考えている。しかし、出資者はどの事業に将来性があるのか容易には判断がつかないうえに、資金を融通した起業家が経営努力をしているかどうか、容易に観察ができないといった問題がある。また、起業家には経営権を出資者に握られることを恐れ、結果として社会的に望ましい出資機会を逃してしまうこともありうる。このような情報の非対称性や、戦略的対立による出資者と起業家の間にある種の緊張関係が存在することが経済学的に解明されており、実際に起業を分析する際には無視できない要素である。さらに起業時における出資額や比率などの契約時の初期条件が、企業ダイナミクスに影響をあたえるという経済学的研究もあり、企業のスタートアップと資金調達の関係は非常に重要である。本グループでは、すでに過去の理論研究のサーベイを行っており、研究の発展性について議論を行っている。以上のことを踏まえて、本グループでは、開業時の資金提供をめぐる、企業家と出資者の行動について、理論・実証双方にまたがる研究を行う。加えて開業後の企業の成長過程に対して、起業時の出資状況が与える影響についても検討を行う。実証分析では日本の中小企業データを用いる予定である。
 加えて開業時には中小企業特有の事業見通しの不透明さ(リスク)の検討も避けられない。中小企業、特にイノベーション活動を活発に行う企業は、多角的に事業を展開する大企業と比較して、将来の収益見通しがより不透明であることが一般的に知られている。そのため、企業家・出資者が、将来の事業見通しの不透明さにどのように対処するか、という問題を考慮することは、スタートアップ企業の成長を考えるのに重要である。

2-2 多様化する資金調達手段の経済学的解明 (式見)
 クラウドファンディングなどのインターネットを用いた多様化した資金調達手段が近年、台頭している。米国においてはJOBS法の制定により、ベンチャー企業に対して個人がオンライン上で投資を行うことが円滑に行うことができるようになった。日本においてもリスクマネーの一つとして株式型クラウドファンディングが2014年に法制化され、いくつかのサイトが設立されている。本研究では、企業の資金調達手段の一つとしてのクラウドファンディングに着目し、ベンチャーキャピタル等の比較をしながら、新しい資金調達手段の活用について、実証的に考察を行う。

③成長期ユニット: 成長段階にある企業に対する金融システム

3-1 新たな企業の成長手段としてのM&Aと第二創業 (式見)
 日本の中小企業は技術水準が高く、国際的にも地名度の高い企業が多い一方、創業者世代の高齢化と後継者不足等により、事業存続の危機に陥っている企業が少なくない。中小企業の事業継承や事業再生手段の一つとして着目されているのが、M&A(企業の合併や買収)である。本研究では、中小企業のデータを用いてM&Aの決定要因やM&Aによる事業再生効果について実証分析を行うことにより、どのようなM&Aや第二創業の形態が、地域経済再生に貢献するかについて、考察を行う。特に、従来から資金提供者であった銀行の新たな企業支援サービスとの関連の中で考察を行う。さらに、会計制度やコーポレートガバナンス等、金融制度環境の国際的な相違と国際基準への収斂が、これら企業ダイナミクスに及ぼす効果について、国際比較を行う。

3-2 IPO市場と企業成長(森保、山田)
 新規株式公開(IPO)は企業が初めて株式市場に上場することを通じ、広く一般株主の間で株式が取引を行える状態になることである。より自由に株式を通じた資金調達が可能になる一方で、社会的責任が大きくなると一般に言われている。但し株式市場の仕組み、あるいはIPOに関する制度が国ごとに大きく異なっている。それら制度の違いとIPOの利用状況、さらにはIPO後の企業成長についての分析を行う。本グループでは、すでに日本および他国のIPO制度と流動性の関係について調査を行っている。具体的には、今までこの分野で着目されることがなかった株式取引時間中のデータを用いて分析を行う。