東アジアにおける最適な金融システム　研究ユニット

岡田は、現代の社会において損益計算が果たす会計の役割を明らかにすることをテーマとしている。このテーマに取り組むために、これまで会計制度における損益計算の仕組み(損益計算構造)について研究してきた。

損益計算を行う場所には貸借対照表と損益計算書と呼ばれる二つの財務諸表があるが、会計基準や会社法などでは、それぞれの計算に必要な計算要素(資産、負債、資本(純財産)、収益、費用)の範囲とそれらの評価方法に関する規定が定められている。これらの制定に当たり重視されるのが、会計制度目的を反映した利益概念である。多くの国に共通する会計制度目的は、投資家の意思決定に有用な情報の提供(意思決定有用性アプローチ)であるが、それを反映する利益概念に関する考え方には資産負債アプローチと収益費用アプローチがある。資産負債アプローチは、企業が持つキャッシュフロー生成能力の表示を会計目的とし、企業が保有する財産（資産と負債）を会計の対象とする。ここでは資産、負債、資本に基づく貸借対照表での損益計算が中心となり、損益計算書は従属的な位置づけとなる。収益費用アプローチは、企業の能率の表示を会計の目的とし、企業活動を対象とするものである。その表示のために、企業活動におけるインプットとアウトプットを費用と収益として表し、それらに基づく損益計算書での損益計算が中心となる。ここでは貸借対照表は従属的な位置づけとなる。現在の国際的な会計基準のコンバージェンスの中では資産負債アプローチが主流である。これまで岡田は、資産負債アプローチを主として取り上げ、資産、負債と資本に基づき計算される損益に対して、収益や費用はその原因を説明するものであるという仕組みを明らかにしてきた。

今後は、これらの利益がもつ社会における機能を研究しようと考えている。資産負債アプローチの下で計算される利益は包括利益と呼ばれる。しかし、このアプローチを採用している諸国でも、毎年計算する包括利益の額は異なる。さらに、多くの国では、包括利益に加えて純利益やプロフォーマ利益など包括利益とは別の利益も計算する。それは、具体的な意思決定有用性の捉え方が各国会計基準設定機関で異なることに起因する他、企業を取り巻く株主や債権者の利害調整が会計制度目的として加わることにも起因する。とりわけ日本では利害調整機能を伝統的に重視してきた。これらの利益計算が投資家の意思決定や利害調整に対して果たす役立ちを明らかにしようと考えている。